抄録・内容(日) | 本稿では, 特にマルクス経済学の理論研究の知見から, 脱成長論を検討する. 環境危機を招いているのは, 直接的には人間活動の物質的な意味での拡大だが, この危機を脱するために目指すべき方向性として, 経済成長の是非が目下問われている. このとき, 経済成長と利潤の確保は厳密に区別される必要がある. 成長がなくなると社会が停滞するというイメージは, 端的に言えば前世紀的な資本主義像を引きずったものであり, 論理的でない. 利潤の発生と経済成長とは別の概念であり, 成長がなくても利潤が追求される社会は想定可能である. これは, 利潤はあるが, 蓄積のない社会となる. そこでは, 利潤追求に伴う種々の深刻な問題は残存するものの, さしあたり脱成長は実現される. 蓄積のない社会は階級社会を克服できないので, これを社会主義やコミュニズムなど, ポスト資本主義の社会システムを指す言葉で呼び表すことはできない. しかしこれは, これまでに提唱されてきた, 国家社会主義や市場社会主義の理念を一部継承しながら, 未来に向かうための現実的な第一歩になる. |